展覧会の絵という曲をご存じでしょうか?
絵画のようなタイトルがついた各曲と「プロムナード」と呼ばれる部分から成る組曲で、TV番組で使われている有名な部分があったり、曲の最初に出てくる「プロムナード」の印象的なテーマがあちこちに登場したりと、とても色彩豊かな曲なのですが、実は元々ピアノ曲として作曲された曲なのです。
展覧会の絵とはどんな曲なのか、ピアノ曲なのにオーケストラ曲が有名になった経緯、あのよく耳にする有名な部分はなんなのか!?について解説します。
展覧会の絵といえば、トランペットの華やかな音色で始まる冒頭がとても印象に残っているのですが、元々はピアノ曲だったとはとても意外ですね。
展覧会の絵はムソルグスキー作曲のピアノ組曲
展覧会の絵は、ロシアの作曲家ムソルグスキーによって作曲されたピアノ組曲です。
画家であった友人の死を悲しみ、彼の遺作展を訪れた際の様子が描かれています。そこでムソルグスキーが見た10枚の絵の印象を、ムソルグスキー自身が絵から絵と移り歩く様子を表現する「プロムナード」というテーマでつなぎ合わせた形で曲が進みます。
展覧会の絵という曲名から、絵を見に行った時の情景が表現されている曲だとは思っていましたが、その展覧会とは友人の遺作展だったとは驚きです。
純粋に絵画の印象だけが曲で表現されているのか、絵画を見て思い出された友人との思い出も曲に反映されているのか、ムソルグスキーはいったいどんな思いで展覧会の絵を作曲したのか気になるところです。
展覧会の絵はラヴェル編曲のオーケストラ版が有名
そんなムソルグスキーがピアノ曲として作曲した展覧会の絵ですが、なんと生前には一度も演奏されず、出版もされないままでした。
ムソルグスキーの遺稿の整理に当たったリムスキー=コルサコフという、同じくロシアの作曲家の手によりピアノ譜が出版されたことでようやく日の目を見ます。ただし、この出版譜はリムスキー=コルサコフによる改訂が多く入っており、現在では原典版とは明確に区別されています。
展覧会の絵はリムスキー=コルサコフの他にもさまざまな音楽家が補筆・改訂・編曲をした版が世に多く出ていますが、一番有名なものはフランスの作曲家ラヴェルによるオーケストラ版と言えるでしょう。
ラヴェルの編曲による展覧会の絵は、冒頭のトランペットのファンファーレ的な「プロムナード」に始まり、原曲のロシア的な要素よりもオーケストラ作品としての豊かな色彩表現に重点が置かれています。
印象に残っているトランペットで始まる冒頭はラヴェルの手によるものだったのですね。ラヴェルは別名「オーケストラの魔術師」とも呼ばれる作曲家で、非常に色彩豊かな曲を数多く作曲している作曲家ですので、その華やかさにも納得です。
展覧会の絵の各曲と有名な部分を解説
展覧会の絵の各曲とTV番組などによく使われる有名な部分について、ラヴェルのオーケストラ版を元に解説していきます。
第一プロムナード
トランペットソロで奏でられるテーマに金管楽器群が応じる形で曲が始まります。歩みを進めていくことでどんな絵との出会いがあるのかといったワクワク感も感じられます。
グノーム(小人)
プロムナードから急におどろおどろしさを感じる曲調に切り替わります。小人といっても人ではなく妖怪の一種で、奇妙な格好で動き回る様子が描かれています。
第二プロムナード
グノームの曲調からは一転、ゆったりした牧歌風のアレンジでプロムナードのテーマが演奏されます。
古城
どことなく物悲しいメロディーで、人々に忘れられ打ち捨てられた寂しい古城の風景が目に浮かぶようです。
第三プロムナード
冒頭のプロムナードと同様トランペットで始まりますが半音高く少し不安定な感じで、呼びかけへの応答は低音楽器から始まり弦楽器群に連なります。
チュイルリーの庭(遊びの後の子どもたちの口げんか)
少しずつヒートアップしては落ち着き、またヒートアップしては落ち着く様子はまさに子どもたちがぺちゃくちゃ喋ったり落ち着いたりする情景が目に浮かぶようです。
ビドロ(牛車)
ビドロとはポーランドの2頭立て牛車のことで、重い荷物を引く牛車が遠くから近づいてきて、また遠ざかっていく情景が描かれているようです。
「ドナドナ」をイメージしてしまうのは私だけでしょうか……。
第四プロムナード
ビドロの雰囲気をピッコロやフルートが引き継いでプロムナードのテーマが物悲しく奏でられながらも次の曲に繋がっていきます。
卵のカラをつけたひな鳥の踊り
ちょっと調子っぱずれでピョコピョコと弾むように軽やかに曲が進んでいきます。つま先立ちで踊るバレエのイメージがしっくりきますね。
サムエル・ゴールデンベルクとシュムイレ
前の曲調からは一転、重々しいテーマが奏でられた後にせわしなく、高音のトランペットがまくしたてる様に演奏されます。
この曲は重々しいテーマがお金持ちの、せわしないテーマが貧乏のユダヤ人を表現していると言われています。最後はお金持ちがねじ伏せてしまっているようですね……。
リモージュの市場
賑やかでせわしない、常にわちゃわちゃして人の往来が活発な市場の様子が描かれています。
カタコンベ(ローマ時代の墓)
前の曲から切れ目なく演奏されます。急に強烈な低音が鳴り響くので少しびっくりします……。
お墓独特の重苦しい、そして厳かさを感じさせる金管楽器メインの和音で曲が進行していきます。
死せる言葉による死者への呼びかけ
プロムナードとは銘打たれておらず、曲として区切られていないことも多いのですが、カタコンベの重々しさを残したプロムナードのテーマが奏でられます。
鶏の足の上に立つ小屋―バーバ・ヤガー
鶏の足の上に立つ小屋とはいったいどんな小屋なんでしょうか……原画は伝説上の妖怪、バーバ・ヤガーの小屋をモチーフとした置時計のデザインだったようなのですが、せわしなく、それでいて大胆に緩急のつけられた曲調から想像するに、重力などといった我々の常識では図ることのできないような設計で作られているのでしょうね。
キエフの大門
こちらも前の曲から切れ目なく演奏されます。バーバ・ヤガーのせわしなく落ち着きのない曲調から突如開けた場所に出たような堂々とした曲調は、まさに大きな建造物をイメージさせます。プロムナードのテーマも登場し、組曲を締めくくるのにふさわしい華やかな曲です。TV番組「ナニコレ珍百景」で、珍百景が登場する前段に流れるあの有名な部分は、この曲からの引用です。
こうして各曲を並べてみると、展覧会の絵がこの順番に展示されていたのかどうかは結構怪しい気がしてきました。
TV番組で有名な部分の他にも聴きどころが多い曲だと思いますので、機会を見つけて楽しんでみるのもよいと思います。
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